ツマとムスメとウツボク

いきるってたいへん。でも、すばらしい。

「喉元過ぎれば…」とボク

今日はなぜか、過去の事が走馬灯のように思い出される日だった。

 

それも、当時、「脅威」に思っていたことだ。

そういう記憶は、なぜかよく残っている。

 

最も古い「脅威」の記憶は、おそらく2歳くらい。

脅威というか、「恐怖」だった。

 

なんてことはない話だ。

自分が昼寝をしている間に、母がほんの数分、近所に買い物に行ったのだろう。

 

運悪く、その「数分」の間に目を覚ましたボクは、

母がいない事に気付き、こわくて、さみしくて、号泣した。

 

間も無くして、母が小走りに帰ってきて、

すぐに抱きしめてくれた温もりも、セットで覚えている。

 

次に思い出されるのは、祖父母宅の近所に住むおばちゃんだ。

 

当時、通っている幼稚園から祖父母宅が近かったこともあり、

毎日のように、祖父母のところに遊びに行っていた。

 

祖父母宅から、こどもの足で歩いて30秒くらいの場所に、

そのおばちゃんは住んでいた。

 

いや、おばちゃんは失礼だな。

「おねえさん」と呼ぶには無理があるが、「おばちゃん」と呼ぶには気がひける、

そんな年代だった気がする。

 

当時はまだ、「近所づきあい」というものが盛んだったので、

祖父母宅の近所の人たちとは、ボクも顔見知りだった。

 

その、おねえさんおばちゃんは、当時、ボクの事を、

かなり可愛がってくれていたようだ。

 

祖母は、夕飯が少し多目に出来た日には、ボクにデリバリーを頼んだ。

そのおねえさんおばちゃん宅に。

いわゆる「お裾分け」である。

 

その、おねえさんおばちゃんは、ボクの事が可愛いあまり、

ボクの姿を見つけると追いかけてくるのだった。

笑いながら。

 

ボクがパタパタ逃げるもんで、それがまた可愛いかったのだろう。

おねえさんおばちゃんと、祖母は、そんなボクを見て、いつもケラケラ笑っていた。

 

和やかで平和なご近所のひとときである。

 

しかし、ただひとり、真剣な人間がいた。

 

なんか意外な展開を予想させるような語りかけになってしまったが、

そう、ボクである。

 

おねえさんおばちゃんが、本気でこわかったのだ。

本気で恐れ、本気で怯え、全速力で逃げていた。

しかも、笑いながら追いかけて来る。

笑えない笑えない、全然笑えない。

 

「脅威」という言葉がまさにフィット。

 

今思い返すと、祖母がボクをデリバリーボーイとして、

おねえさんおばちゃん宅に派遣していたのは、悪意があったとしか思えない。

 

もう30年も前の話だ。

おねえさんおばちゃんも、「おばあちゃん」になっているだろう。

元気にしているかなあ。

 

思い出の年齢が上がれば上がるほど、記憶は濃くなっていく。

 

小学校低学年の時、最も「脅威」だったのが、下品で申し訳ないが、

学校での「うんこ」だった。

 

小学生男子は、基本的にあほうである。

うんこ、大好きなのだ。

 

散々バカにする癖に、いざ、自分が学校のトイレでうんこをするとなると、

みんな、相当にナーバスになっていた。

 

「学校でうんこをする」という事は、ご法度だったのだ。

 

個室に入るところを誰かに目撃されようものなら、

パパラッチのように、あほう男子達が押し寄せてくる。

 

そうなれば、少なくとも一週間は、あだ名が「うんこ」だ。

 

今思えば、なんて理不尽なコミュニティに身を置いていたのだろうと、

ゾッとする。

 

実は当時、「穴場」があった。

一か所だけ、人通りの少ないところにトイレがあったのである。

 

しかし、今思い返せば、みんな口を揃えて「あそこは穴場だ」

と言っていたので、もはや「穴場」ではないではないか。

 

ある日、ボクはうんこの我慢が限界を迎えようとしていた。

学校でのうんこは絶対に避けたかったが、到底家まで我慢出来そうにない。

 

意を決して、歯を食いしばり、肛門を引き締めながら、

ボクは、「穴場」へと向かった。

忍者のごとく。

 

誰にも見られていないことを用心深く確認した上で、サッと、個室に侵入。

無事にミッションを成功させた。

 

しかし、これで終わりではない。

個室から出るところを目撃されてもアウトなのだ。

 

パンツとズボンをそーっと上げようとしたその瞬間、

何か、非常に、非常に、嫌な予感がした。

 

そっと顔を上げてみると、スパイダーマンのごとく、

天井と個室の間に張り付いているヤツがいるではないか。

 

心臓が止まった。

 

目が合った瞬間、そいつはサイレンを鳴らすパトカーのように走り去り、

野次馬達を呼び寄せてきた。

 

ボクのお忍び個室は、あっと言う間にパパラッチに包囲されたのだった。

「穴場」が「墓場」に変わった瞬間である。

 

えーっと、今日は何を書きたかったんだろうか。

もう自分でもよく分からなくなってきた。

 

そう、「脅威」の話だ。

 

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とは、本当によく言ったもので、

当時の「脅威」は、今や、笑い話に変わる。

 

今日は、それについて、つくづく不思議であり、便利な機能だなあ、

と、昔にタイムスリップしながら思い巡らせていたのである。

 

だって、当時は、本当に「脅威」だったのだ。

 

母がいなくて号泣した時も、この世の終わりかと思ったし、

おねえさんおばちゃんに追跡されている時も色々覚悟していたし、

変態スパイダーマンにうんこを目撃された時は完全に事件だった。

 

その時は、本当に、悩み、苦しんでいたのだ。

ボクの場合、ちょっと大げさだけど。

 

そこまで昔までさかのぼらなくとも、例えば、一年前。

一年前に悩んでいた事を、今振り返るとどうだろう。

 

そういえば、あんなことで悩んでいたなあ。

なんであんなことで悩んでいたんだろう。

 

と思える人もいるかもしれないし、

 

深い傷を負って、一年前よりもっと前の事も、いまだに、

昨日の事のように思い出し、苦しい思いをしている人もいるかもしれない。

 

でも、不思議なもので、「時間」という液体が、それを必ず薄めてくれる。

人それぞれ「濃度」は違うので、薄まる時間は様々だが、必ず、必ず、薄まるのだ。

 

みな、「今」を一生懸命に生きている。

時には悩み、時には苦しみ、もがきながらも生きている。

 

でも、そんな「今」は、いつか必ず「思い出」となり「笑い話」となり得る。

 

そう思った時、ボクは、なんとなく清々しい気持ちになった。

5年後、10年後、ボクは今の自分をどう振り返るだろうか。

 

どうせ喉元過ぎて忘れてしまうのだから、

今の「熱さ」もしっかり味わってやろうと思う。

 

と、かなりの強がりを言い放ち、今日は筆を置きます。

 

今日も、「ウツボク」に来てくれてありがとうございます。

 

あの変態スパイダーマンの顔は一生忘れない。

 

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