ツマとムスメとウツボク

いきるってたいへん。でも、すばらしい。

ツムちゃんとボク

絵本のタイトルみたいになってしまった。

 

ツムちゃんとは、最近、我が家で同居を始めたカタツムリのことである。

 

ツマはいつも午前中いっぱい、

外や公園に、ムスメたちを遊びに連れ出してくれている。

 

2~3週間前だろうか。

その日も、いつもと同じように、遊びに出かけ、昼頃に帰ってきた。

 

ツマの指に何か乗っかっている。

 

そう、これがツムちゃんとの最初の出会いだった。

 

カタツムリをこんなに間近で見たのは何年ぶりだろう。

小さい頃は、しょっちゅう外で見かけていた気がする。

 

なんだか、とても懐かしくなって、ちょっと嬉しかった。

 

が、すぐに逃がしてあげると思いきや、ツマとムスメは「飼う」と言い始めたのだ。

「カタツムリって、飼えんの?」

 

実は、この夏、我が家はクワガタを飼っていた。

 

この出会いも突然で、ある朝、ツマが目を覚ますと、畳にクワガタがいたらしい。

全然山奥でもないし、一応、東京なんだが。

 

運命を感じたらしく「飼う」ことになった。

 

ツマとムスメは100円ショップに自転車を飛ばし、

その日のうちに、虫かごと昆虫ゼリーを買ってきた。

 

「仕方ねえなあ」

 

と、ボクも重い腰を上げて、団地内の公園の土を拝借し、

クワガタの住居整備に取り掛かった。

 

色々セッティングしているうちに、少年時代を思い出し、

ちょっと楽しくなってきてしまった。

 

気が付くと、なかなかのクワガタハウスが出来上がり、

黒蜜が香る昆虫ゼリーをムスメから死守しながら、そっと差し入れた。

 

ふふふ、かわいいなあ。

 

それからというもの、結局、一番可愛がっているのはボクで、

毎日、霧吹きをシュッシュッと吹きかけ、「おーい」なんて声をかけていた。

 

愛しさが日に日に増していた頃、ある朝、クワガタは姿を消した。

こつ然と、姿を消したのである。

 

いきなり現れて、いきなり消えた。

住み心地が良さそうな虫かごと、大量の昆虫ゼリーが虚しく残った。

 

なんだったのか。

 

そんなことがあったもんだから、

ボクはカタツムリを飼うことに、あまり気乗りしなかった。

 

しかし、ツマは、カタツムリの飼い方と食べ物をネットで調べ始め、

空き家になった虫かごをひっぱり出してきた。

 

とりあえず、ツムちゃんは、虫かごに入れられ、

石と大き目の枝、そして、食料になる、

キャベツの葉と卵の殻(カタツムリの殻を生成するのにカルシウムが必要らしい)

が投入された。

 

控えめに言って、「生ゴミの中にいるカタツムリ」だ。

 

ツムちゃんには申し訳ないが、

「これはすぐご臨終だな…」

とボクは思った。

 

しかし、ツマもムスメも可愛がろうとしているので、そんな事は口に出来ず、

ただ、見守っていた。

 

数日経って、ツマが動画を見せてくれた。

そこにはツムちゃんの姿が。

 

いつも殻にこもって、正直、生きてるんだか死んでるんだか分からなかったが、

動画に映っているツムちゃんは、実にいきいきとしながら、

キャベツを食していたのだ。

 

「かわいい…」

 

いつものツムちゃんとのギャップに、思わず胸がときめいた。

 

それからというもの、ボクも時々、ツムちゃんの様子を見るようになった。

相変わらず、いつも殻にこもっているが、

たまーに顔を出す。

 

そして、キャベツをムシャムシャ食べているのだ。

 

「かわいい…」

 

結果、今現在、一番ツムちゃんを可愛がっているのはボクである。

毎日、霧吹きをシュッシュと吹きかけ、

殻にこもったツムちゃんに心の中で話しかける。

 

「(おーはよ)」

 

当初より、住空間も劇的に改善された。

劇的ビフォーアフターである。

 

ツマとムスメたちは、絵本が好きで、だいたい週に一回は図書館に行き、

3~4冊の本をごっそり貸りてくる。

 

ある日、「カタツムリ」の本を借りてきているのを見つけ、

誰よりも熟読し、カタツムリの住み心地が良い空間、

食事などについて、調べ上げた。

 

あんなに薄情だったのに、調子のいいヤツだなと自分でも思いながら、

せっせとツムちゃんハウスを整えた。

 

もう、いよいよかわいい。

 

当たり前だが、ツムちゃんはうんちをするのだ。

かわいいうんちだ。

 

ということは、やっぱり食事をちゃーんと食べているということだろう。

初めてうんちを見た時は、ホッとした。

 

ツムちゃんと住み始めて、まだ1か月も経たないが、

ある日、ツムちゃんを見つめながら考えた。

 

ツムちゃんの生活は実にシンプルだ。

「くう」「ねる」「だす」

基本的にこの3つ。

 

あとはずーっと殻に閉じこもっている。

 

でも、生き物に必要なことって、この、

「くう」「ねる」「だす」

ではなかろうか。

 

もちろん、人間にはもっとすべきことがある。

たくさんある。

 

でも実は、人間でさえ、この

「くう」「ねる」「だす」

のどれかひとつでも欠けると、バランスを崩すのだ。

 

みんな、忙しく、めまぐるしい毎日をそれぞれに過ごしているが、

「くう」「ねる」「だす」が木の幹だとしたら、

あとのことは、正直、枝葉の部分だろう。

 

バランスを崩すと、そのことがよく分かるようになる。

 

人生とは、複雑でありシンプル。

矛盾をはらんだ大冒険なのだ。

 

ツムちゃんから、人生を学んだ。

なかなかやるじゃないか、ツムちゃん。

 

今日も殻に閉じこもっている。

ツームちゃん。

 

今日も、「ウツボク」に来てくれてありがとうございます。

 

ツムちゃんを見つめてるボクを横目に、「(あなたと)ツムちゃんの一日の移動距離って、だいたい同じくらいじゃないのー?あははは!」とツマが言い放っていきました。

 

7歳までのお守りBOOK―西野流「ゆる親」のすすめ〈上〉「正しい母さん・父さん」を頑張らない。

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