結婚する前から、ボクはこんな体調なので、
家族で、お出かけらしいお出かけをしたのは、片手で数えるほど。
新婚旅行は熱海に行ったが、
その時も、ギリギリまで、ボクがウダウダと言っていた。
当日、体調が悪かったのだ。
ツマは、とっても楽しみにしていた。
もちろん、ボクだって。
しかし、動かんのだ、身体が。
ツマは、少し悲しい目をしながらも、
「いいよ、大丈夫。元気になったら、また行こう。」
と言ってくれた。
おぉ…。
すまぬ、本当にすまぬ。
ゆるしてくれ、ツマよ。
おぉ…。
うなだれながら寝そべる。
しかし、ツマがささやくような小さな声で言ったひとことを、
ボクは聞き逃さなかった。
「当日だから、ホテルのキャンセル料100%だけどね。しょうがないね。」
飛び起きた。
一瞬で荷造りを済ませ、電車に飛び乗った。
「キャンセル料100%」
ものすごいパンチ力だ。
こうしてボクは、カウント「9」でギリギリ立ち上がり、
熱海でファイティングポーズをとったのだった。
今考えると、ツマが上手にコントロールしたのかもしれない。
「立つんだ、ジョー!」
なんて言われても、立てないボクを知っているので、
リングサイドから、
「キャンセル料100%だからね!」
と、声をかければ、すぐ立ち上がると、セコンドのツマは知っていた。
写真を見返すと、どれも具合が悪そうだが、今ではいい思い出さ。
前段が長くなったが、
そんなわけで、「お出かけ」はそんな新婚旅行にはじまり、
ほとんど、まともに行けていない。
数少ない中でも、ボクがよく覚えているのが、鎌倉に行ったこと。
あれは、たしか、2回目の結婚祝いだった。
あれ、3回目だっけ。
一泊二日で、のんびり、ツマとふたりで鎌倉を散策した。
あ、いや、3人だ。おなかの中にムスメがいた。
鎌倉の、味わいある街並みを3人で楽しみながら散歩した。
夕方になり、おなかが空いてきたので、近くのお店に入ることにした。
入った店は、昭和を感じさせる、レトロな洋食屋さん。
マスターと、奥さんが笑顔で迎えてくれた。
決して広くないし、特別きれいでもない。
でも、なんだか居心地がよかった。
料理は、手作りのあったかい味がした。
マスターと奥さんの人柄も、おいしさを引き立てていた。
そろそろ帰ろうかという頃、ボクは用を足しにトイレに入った。
そこで、静かにおどろいた。
もう見かけることは少なくなった、和式のトイレだった。
もちろん、お店同様にトイレも古い。
でも、なんというか、いやな感じがしなかったのだ。
いやなニオイもしなかった。
よくよく見ると、「お手入れ」がきちんとされているのが分かった。
詳しくは分からない。
でも、おそらく毎日きれいに掃除をされているのだろう。
店内もよくよく見渡すと、やはり「お手入れ」がされている。
ああ、これが居心地のよい、ひとつの理由だったんだと、ボクは合点した。
帰り道、歩きながら、ツマとそのことについて話した。
必ずしも、「ふるい=きたない」ではないのだね、と。
ああいう風に、物や人を大切にしたい。
ああいう生き方をしたい。
そんなことをしみじみと考えながら、夜の鎌倉を3人で歩いた。
今の時代、安くて良いものは、簡単に手に入る。
便利で、洗練されたデザインの物であふれている。
そんな時代だからこそ、ボクには新鮮で美しく映った。
昔からあるものを、大事に大事に手入れをしながら使う、あの洋食屋さんが。
話は変わり、
「ホセ・ムヒカ」という人物をご存じだろうか?
2012年のリオ会議(国連持続可能な開発会議(リオ+20))での、
やわらかくも、本質を鋭く突くスピーチをきっかけに、
世界にその名が知れ渡った、ウルグアイの前大統領だ。
「世界一貧しい大統領」のキャッチフレーズで親しまれ、
日本でも、メディアが大きく取り上げた。
ボクは、当時、ニュースでたまたま、ムヒカさんのスピーチを観て、
深く、深く、感動したのを覚えている。
今日、鎌倉の洋食屋さんのことを書きながら、ムヒカさんのことを思い出した。
当時のスピーチの動画があるので、もしよければ。
※字幕、吹替つきで12分ほど。
最後に、ムヒカさんのスピーチの中で、最も印象に残った言葉を紹介して終わりたい。
私たちは発展するために生まれてきているわけではありません。
幸せになるためにこの地球にやってきたのです。
今日も、「ウツボク」に来てくれてありがとうございます。
といいつつ、頭の中は欲しいもので溢れているボクなのだ。