ボクには、「善き夫でいたい」という、意地とプライドみたいなものがある。
厳密に言うと、「善き夫でいたいと思えているボク」を維持したいのだろう。
ということを、残念ながら、とうの昔にツマには見透かされている。
「意地とプライド」が、泣いておる。
ここ数か月は、例のごとく体調不良が続いており。
仕事にも行けず、まともに社会生活を営めていないことも、
ボクのかぼそい「意地とプライド」に拍車をかけているのだ。
「日々がんばってくれているツマにひとりの時間を」
そんな目標を掲げてはいるが、なかなか実現はむずかしい。
「ムスメとコムスメと留守番してるから、ゆっくりしてきなよ。」
なーんて、ボクは粋がるわけだが、ツマは知っている。
帰宅したら、自滅している夫が待っている事を。
そして、その後始末が面倒臭いことも。
そもそも、ボクがそんな気を回さなくても、ツマは自分で上手に時間を作っている。
たくましい、じつに、たくましい。
そんなツマの背中を見つめながら思う。
この女性でなければ、ボクの妻はつとまらんだろうな。
そして、ボクを夫に迎え入れてくれるのもまた、この女性くらいだろうな。
「なーにみてんのよ」
つよく、たのしく、たくましく。
小学校の標語を体現したような女性である。
自虐とツマ語りが長くなりました。
ツマらない話をすみません。
とまあ、ボクには、そんな「ツマファースト」の精神が宿っている。
宿っているだけである。
なので、せめてお風呂くらいは、ツマにはひとりでゆっくり楽しんでほしい。
常々、そう思っているわけだ。
しかしながら、これもまた「思っているだけ」で、実現が容易ではない。
体調が悪くない日は、ムスメとコムスメと入浴する。
が、そうではない日が断然多い。
結局、ツマがムスメとコムスメを風呂に入れ、寝る支度を済ませる。
まあなんといいましょうか、その手際の良さたるや。
陰で「職人」と呼んでいる。
ええっと、何を書きたいのか忘れました。
本題に入ります。
そんな背景がありつつ、今晩は、色んなことが重なって、
「ムスメとボク」という組み合わせで風呂に入ることになった。
コムスメが産まれてから、たぶん、初めてだったと思う。
ムスメと、ふたりっきりのお風呂。
今月で、ようやく本人念願の「3さい」になったムスメ。
「16さいになった」「あしたからしょうがっこうにいく」
という類の虚言をそこらじゅうで振りまいてはいるが、
あらためて、大きくなったなあと思う。
父親としては非常に贅沢な悩みだが、
「ぱぱ~」
「ぱぁぱ~」
「ねえーぱーぱー」
「ぱぱーーー!しっこーーーー!!!」
と、四六時中よばれていると、流石に時々うっとうしくなる。
自宅警備員をしているワタクシの責任ですが、世の中のママたち、すごい。
最近は、コミュニケーションも大分とれるようになってきたので、
一丁前なことも、ときどき言ってくる。
「ぱぱ、きょう、びょういんいったの?ひとりで!?すごいね!がんばったね!」
小さいお母さんかしらね。
たまーに、ケンカっぽくもなったりして。
で、3歳のムスメ相手にふてくされてる自分に絶望。
さらに、結局フォローを入れてくるのはムスメということに落胆。
小さいツマかしらね。
そんなこんなで、すくすくと育ってくれているムスメ。
とてもとても、ありがたい。
今日は、そんなことを想い巡らせながら、いっしょに湯舟に浸かった。
ついこの間まで、パシャパシャ、きゃっきゃっと遊んでいたのに、
今日は、ボクといっしょにしずかーに風呂を楽しんでいる。
「あー、極楽、極楽」
と、ボクが思わず言うと、
「ごらくく、ごらくく」
言い間違えの多さはツマゆずり。
実は、お風呂にはちょっと素敵な作用があると、ボクは思っている。
「裸の付き合い」とは、よく言ったもので、気持ちが開放的になりやすいのだ。
これを言うと、ほとんどの人に気持ち悪がられるが、
ボクは二十歳を越えても、ときどき、弟と風呂に入っていた。
なんとなく普段言いづらいことや、面と向かっては恥ずかしいことも、
不思議と風呂では言えてしまったりするのだ。
だから、ボクは風呂や銭湯や温泉が好きだし、
大切なコミュニケーションの場でもあると思っている。
そんな「お風呂マジック」に、今日、ボクはかかったのかもしれない。
普段から大切に想っているが、
自分の横で気持ちよさそうに風呂に浸かっているちっちゃいゴリラ。
みたいに可愛いムスメが、なんとも、なんとも、愛おしく、愛おしく思えた。
自然と自分の口から、
「ムスメちゃん、ママとパパのところにうまれてきてくれて、ほんとうにありがとうね。パパね、ムスメちゃんのこと、ほんとうにだいすきだよ。」
歯の浮くような台詞が出てきてしまった。
お風呂マジックか。
一瞬、キョトンとしていたムスメだが、すぐにニッコリ笑って、
「うん!」
と言ってくれた。
お風呂マジックはまだ続き、
「ムスメちゃん、いつもパパにやさしくしてくれてありがとうね。パパね、ほんとうにうれしいんだよ。」
「いつも、いっぱいあそんであげられなくて、ほんとうにごめんね。びょうきがよくなったら、いっぱい、いっぱいあそぼうね。」
と言っている声は震えており、目には涙がこんもりたまり、
気が付いたら、ムスメを抱きしめていた。
日々のムスメに対する、自分なりの申し訳なさや不甲斐なさ、
そして、ボクを求め、慕い、大切にしてくれることへの感謝が溢れ出た。
ムスメは、またニッコリ笑って、
「うん!」
と言ってくれた。
これを書きながらまた、泣いている。
ボクも、「親父」の階段を登り始めたのかもしれない。
今日も、「ウツボク」に来てくれてありがとうございます。
うまれてきてくれて、ほんとうにありがとう。